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zoom RSS 赤坂憲雄の「東北学/いくつもの日本を抱いて」

<<   作成日時 : 2007/07/17 01:45   >>

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瀬谷こけし
『東北学への招待』(2004年、角川学芸出版)の巻末にあり、全巻のまとめをする論考である。必要があって久しぶりに読んだのだが、幾つか考えるところがあった。幾つか引っかかるところがあったと言った方が正確かもしれない。そのままにしておかない方がよいだろう。
それは例えばこういうところだ。

>山形の山村を聞き書きのために歩くと、思いがけず稗の姿はまるで見られなかった。その代わりに、戦後間もない頃までは、カノと呼ばれる焼畑で栽培されるソバやカブが主作物であったことを知った。カブ漬けは冬越しの大切な食料となった。ブナの森の豊かな恵みである山菜・きのこの採集や、狩猟・川漁なども、大切な生業とされてきた。
(p.212。強調は引用者)。

ここで言うところの「主作物」とは何のことであろう? カノではソバやカブが主要な作物であったことはわかる。そして「カブ漬けが冬越しの大切な食料」であったこともわかる。しかし「ソバやカブが主作物であった」ということは、それらが「主食」であったということとは別のことなのではないだろうか。つまりそれらは「米」を主食として前提にした上での食料だったのではないだろうか。
 わたしがこんな疑問をいだくのは、この文章が、下北や南部地方では、稗が長く主食の座を占めてきた、という文章に続くものだからである。例えば「下北では、明治二十年代まで、水田の九割までが稗田であった」という。このことはわかる。そしてそれゆえ、稗を通して、「稲に覆われた表層の風景の下に」横たわる東北の基層の風景をさぐるという探求を、われわれは何が主食であったかという問題の探究として理解することができるのである。しかしカブを通して、われわれはその同じ探求を試みることができるのだろうか? 
 もしわれわれが「東北学」という名のもとに「稲作以前の、東北の縄文以来の一万年の基層なす風景」の探求を試みるべきであるならば、われわれは東北のどの地域においても、同じ方法に基づいた探求を試みることができるのでなければならない。そのときわれわれはおそらく「主食」という概念を外して探求を進めなければならないのだろう。
 そうするとどうなるのか? わたしは飛騨のある友人が、稗は不味くて、はじこうて、柱か何かに掴まらんとよう飲み込めなんだ、と言っていたのを思い出す。だがその同じ友人は同時に、稗飯、つまり稗と米とを半々にして焚いたものは、これより美味いものはないというぐらい美味いんじゃ、と言っていたのである。混ぜて調理するというような工夫は、昔からなされて来たことだろう。縄文以来の基層をなす文化や風景は、何も東北にだけあるわけではない。「東北学」をこころざす者は、東北の固有性を探求するのだろうか。それともある種の通有性、あるいはつながりを探求するのだろうか? わたしは、地域の学は、差異をもって関係し合う地域的な諸力の探求の学としてしか成立し得ないと考えているのである。「東北学」もその例外ではありえない。
 赤坂憲雄の「東北学」は一体何を目指しているのだろうか。わたしが尋ねたいのは過去に考え実践してきたことの回顧や反省ではない。それらは状況論的な意味しかもたないであろう。わたしが尋ねたいのは今まさに何を求めているのかということである。


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