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zoom RSS 【小説】ALWE通り

<<   作成日時 : 2017/09/11 15:58   >>

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瀬谷こけし


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ALWE通り

 わたしはALWE通りを探していた。たぶんバーゼルの街で。だが、このALWEというつづりは、これが通りの名前とは思えない。それは何の略だったのだろうか? しばらく考えていた。そしてわかった。これは「Alle Lust Will Ewigkeit」の略に違いないのだ。そんな通りはどこにあるのか?
 バーゼルはニーチェの街だ。というより、ニーチェが最初に職を得ては赴任した街だ。だからといって「ALWE」というニーチェ的な名前の通りがバーゼルにあるなんてとても考え難い。だから、この通りの名は、たまたまわたしが夢の中で見た通りの名前に違いないのだ。こげ茶色のレンガの建物に「ALWE Straße」という通り名を示すプレートを見たというだけなのだ。たぶん。

 だがそんなことが何で大事なのだろう? 夢なら夢でいいが、そんな夢がなんで大事なのだろう? わたしはさがしにさがした。夜の通りを一晩さがしつづけていた。そこにわたしのホテルがあるからではない。ホテルがどこにあるかわからなくて夜の街をさがし続けた経験なら何度もあるが、そんな風に今晩泊まるための宿を探していたわけではない。わたしが探していたのは一種の真理なのだ。「Alle Lust Will Ewigkeit」という言葉が示している真理の場所、ひとつの真理の場所をさがし続けていたのだ。この真理が何を表現しているかを掴みたかったのだ。

 チューリッヒにこんな名前の通りはなかった。それはもともと期待もしていなかったのだが。だがルツェルンに行って、トリープシェンの記念館でワグナーの作品世界を描いた絵画を見てたとき、そこにもこの真理を追究している世界があった。「すべての歓びは永遠を欲する」、この言葉が語る真理を、真理の世界を、そういう歓びそのものを。

 わたしはその後バーゼルに戻ったわけではない。だが夢の中でわたしはバーゼルの街でこの通りを探していた。バーゼルにもあるはずだった。「深い、深い永遠を欲する」と追い打ちをかけるように言葉は追いかけてきた。わたしは言葉に追われていたのだ。探せ、探せ、その真理を、と。そうして夜の街をさまよっていた。いや、ほとんど走り回っていた。そう、この真理をわたしは知っているはずだった。そうしてそこを発見したのだった。ほとんど発見したのだった。その名前を「ALWE通り」というスイス語にしてもありそうもないその名前の通りを発見したのだった。

 だから今はそれでいいかもしれない。そこまででいいかもしれない。確かにその真理の世界は存在していたのだ。そして、
これは秘密なのかもしれないが、
この通りはほんとはどこにも存在しているのだった。だがそれはほんとうに掴みにくい。だがほんとうに存在しているのだ。---そのことが大事なのだった。それを、ニーチェも掴んだのだった。そしてそこにひたることができた。何日も、何日も。ナウムブルクの家でも、ワイマールの家でも。

 バーゼルで、あるいは、バーゼルに、わたしはその名の通りを発見した。死ぬ前にまたわたしはその通りを思い出すだろう。その永遠を思い出すだろう。すべての歓びは永遠を欲する、と。その永遠を。



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