慈照寺庭園 岡本太郎に見えていないもの

瀬谷こけし
 もう一度昨日も引いた拙句からはじめよう。

  鳳凰の飛翔思はば明るむあかり 砂の心の

わたしは銀閣寺の造園の最も深い精神を、銀沙灘と鳳凰の心の呼応に見るので、まずは拙句からはじめさせていただいた。実際、ひとつぶひとつぶの庶民のような砂の心と今にも飛翔してゆく鳳凰の心の呼応以上に、この庭園において見るべきものがあるだろうか? 
 もちろんわたしは、ごの銀沙灘が、慈照寺庭園造園当時からのものでないことはよく知っている。そして実際観音殿銀閣に入って、月を楽しむための趣向が随所になされていることは知っているが、そんな趣味にいったい何ほどのことがあるのだろうか。ちまちました奇形を楽しむ特異な精神にとっての一つの趣向に過ぎないのではないだろうか。岡本太郎がこの庭園のなかの、西芳寺を模範としたようなさまざまな石の組み立てに一顧も与えず、ただ銀沙灘だけに惹きつけられるものを見出したのは、とても正しいことだと思う。わたし自身は岡本以上にはこの庭園のさまざまな石組みを好んでいるのだが、岡本のように言われると、それらは偏頗な趣味に過ぎないように思えてしまうのだ。この点では岡本に感服する。
 しかし、このどどっと押し出して来る銀沙灘の、その秘密を、岡本もまた上手に把握できていないように思えるのだ。岡本も言っていたかもしれないが、この銀沙灘がそっくり水を引いた池だったとしたら、この庭園はちんまりしたものになっていただろう。向月台はある。その表を月は明るく照らすだろう。そうなるとこの庭はただの月見のための施設だ。王侯貴族がおのれを慰めるために作った自慰的な装置以外のものではなくなっていただろう。そして実施当初は銀沙灘はなかったのだ。江戸の安永のころにも、それはなかった。作られたのはその後のことだ。だが今日銀沙灘は歴として存在する。こんな楽しみを生み出したのはどこの誰なのか。いったい誰の遊び心なのか? それこそが芸術的な心だっただろう。
 他方白砂の逆スリバチ形をした向月台の方は当初からあったとしてもおかしくないものだ。『都名所図絵』にもそれは描かれている。他に類のない特異な造形物だが、こちらの方はとりわけ山の稜線との関係を考え、また観音殿との位置、高さの関係を考えている。しかしそれにしても銀沙灘がなければ随分変な位置になるだろうが。しかしそれでも月の楽しみ方の一趣向に収まるものだ。そして忘れてならないことは、この観音殿も庭園も、東を向いて作られているということだ。東から昇る月は、少なからず真如の月という意味を持たせられていて、この寺も庭園も、真如の悟りを希求する願いを表しているだろう。だがしかしおそらくはそれ以上に、西芳寺の指東庵への敬慕のこころがあるように見える。この指東庵の意味については、拙著『日本感性史叙説』(創言社)を参照していただきたいが、どうにも悟りきれない男の破れかぶれの自己弁明のようなものがそこにあるのだ。夢窓疎石とはそんな男だったのではないだろうか。そして足利義政はそんな男の伝説に惹かれていたのだ。
 そしてこの鳳凰の造形。注意しておくべきことはこの鳳凰も東を向いて飛びたとうとしていることだ。今にも飛翔してゆくその姿。この飛翔への心だけは、紛れもないものがあったように思う。そこには本気があった。そしてこの本気だけが、この寺を救った。そしてまた月待ちの趣味を救い、庭園を救った。そして後には銀沙灘を救った。そのひとつぶひとつぶの砂の心までも救った。
 東を向いて飛び発とうとする鳥。鳳凰。それは、やはり指東庵の、仏図澄(ぶっとちょう)のさした指先の彼方を向くであろうが、それはほんとうは東から上る太陽を指したものだろう。わたしはここに、東の太陽の方向をむけて送られる魂の思想を読み取りたいのだが、そこには何かしら再生への希求があるのだ。イオマンテで送られる熊の魂がいつも東を向いて送られるように。
 このこころが、そしてこの思想が、ひとつぶひとつぶの砂の心も救うものではないだろうか。わたしが読み取る銀閣寺庭園の思想はこういうものだ。



向月台
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向月台と山
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馬酔木
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花御堂
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銀沙灘、北西ライン
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銀沙灘、南東向き
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砂の段
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北東から向月台・銀閣
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砂粒
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波紋文様
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銀閣と鳳凰
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銀沙灘と段下の波
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段下の波
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波と反射波
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鳳凰
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こんなところにも波条
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鳳凰
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鳳凰
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