《『朗読者(The Reader)』》

瀬谷こけし


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 例えば旧東ドイツ(DDR)では、私よりも若い世代にも英語が全く理解できない人がいる。例えば40代の人にも。もちろん大変上手な人も少なくない。そしてイエナでシラーのガルテンハウスを案内してくれた70代前半ぐらいの男性は、とても教養の豊かな、顕職についていた人に見えたが、彼は私に英語で案内する努力をしてくれたが、必ずしも英語がスラスラ出てくれるわけではなかった。私にはむしろドイツ語で案内してもらった方が分かりやすかった。このことなのだ。今の旧東ドイツでは、英語ができないことが文化人として文盲に近い恥ずかしいことなのだ。逆に、英語ができると、少し自慢げになる。
 この映画(The Rreader)の女主人公ハンナは、きわめて凛々しく、収容所の看守として法律や就業規則、そして収容所の存立から生ずる問題の解消のために要求される行為を正しく実行してきたということを、裁判の場で正義感をもって正しく主張する(どこかハンナ・アーレントを感じさせる)。だが、たった一つのことが世に晒されることを何よりも恥じた。彼女はヨーロッパの文化伝統にこよなく愛を抱き、多くを吸収したいと思っていた。だが、それが何のせいかは映画では説明されないが、彼女は字の読み書きができなかった。---なんとつらいことだろう。文盲と言う穴が、暗闇が、隠れた井戸が、そこここに存在していた。---だから電車の車掌の仕事は完璧にこなすが、管理職に昇進させられることになると、職そのものを放棄するほかなかった。そして転居し、身を隠す。
 読み書きができないこと、それはどれほど痛いことか。それを晒されることはどれほど耐え難いことか。その恥を受けるよりは、冤罪で罪に服する方がましなのだ。主人公もその彼女の羞恥心を尊重する決断をする。
 ハンナ役のケイト・ウィンスレットの凛々しさは特筆ものだが、私にはブルーノ・ガンツ(Bruno Ganz)のロール教授の役の渋さにも強く惹かれる。法に従うだけで、良心に適った行為ができるわけではない。




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