《ニーチェの英雄論 資料1》

瀬谷こけし

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 1882年8月のタウテンブルク文書の中で、ルー・フォン・ザロメはニーチェを「英雄主義者」と読み取り、その英雄主義と対立させて自分の生き方を示そうとしている。このルーの努力は決して半端なものではなく、また浅いものでもない。多少は有名な彼女のニーチェ論『作品の中のフリードリッヒ・ニーチェ』はいまなお最高度に優れたニーチェ読解であり、ハイデガーからクロソウスキーまで、ニーチェを読み抜こうとする者を活気づけているが、単に古典的価値を持つだけでない。彼女の読み取って見せたニーチェよりも深いニーチェ像を示した思索者がいまだにあるかどうか疑問である。わたし自身より深いニーチェ像を示してみたいのだが、そのためには幾つかの慎重な道を通る必要がある。その一つは多少不安定なところのある彼女のドイツ語表現をできるだけ丁寧に読み取るという仕事である。---これは、普通に想定されるよりも難しい仕事である。---しかしその仕事を進めてゆかなければならないだろう。そしてこのルー・ザロメの読み描くニーチェ像は、彼女がニーチェと共同研究をしていたタウテンブルクの日々にニーチェ自身から読み取ったニーチェ像を軸としていて、それが少しのぶれもないのである。その根をなす一つのテキストは、彼女一人がニーチェから受け取った一枚のメモなのである。「1882年8月25日、タウテンブルク」と日時を明記されたそのメモの内容はこうである。

  Zu Bett. Heftiger
  Anfall. Ich verachte
  das Leben.
    F.N.

  [verachte]を軽率に訳してしまわない注意が必要だが、「(生を)尊重しない」というメッセージは読み取る必要があるだろう。端的に言えば「生」とは別のものを尊重している、ということだ。その別のものは何なのだろう? ニーチェ論はこの問いに答えなければならない。
 この8月25日という日にも多少は注意を払っておく必要があるだろう。というのも、ちょうど8年後のこの日の午前中に、ワイマールの家で、ニーチェはその生を終えるのである。天気のめぐりが今日よりは確実な何かを運んでくれる当時の日々の循環の中で。
 ここでは、ルー・フォン・ザロメのニーチェ読解の要となるいくつかのテキストを紹介しつつ検討してゆくことにしよう。
 まずはニーチェ自身の書き物から。

Tautenburg 08 1882
Dokument N. R. L. von Pfeiffer
S.211


5.
Heroismus – das ist die Gesinnung eines Menschen, der ein Ziel erstrebt, gegen welches gerechnet er gar nicht mehr in Betracht kommt. Heroismus ist der gute Wille zum absoluten Selbst-Untergange.
(英雄主義 --- それは、その目標と引き比べれば自分のことがもはや問題にならないような目標を追究する人間の心的態度のことである。英雄主義は絶対的な自己-没落へのよき意志である。)(拙訳)
6.
Der Gegensatz des heroischen Ideals ist das Ideal der harmonischen All-Entwicklung – ein schöner Gegensatz und ein sehr wünschenswerther! Aber nur ein Ideal für grundgute Menschen (Goethe zb.)
 (英雄的理想の反対物は調和的な全体的発展の理想である --- 見事な反対物でありまことに望むに値する反対物である。しかしこれはきわめて根のよい人間のための理想である(例えばゲーテのような)。)(拙訳)



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