《裏の密林》

瀬谷こけし


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 ある確認のために『ニーチェ対ワーグナー』を読んでいたせいか、ふと『カルメン』のある旋律が浮かんできて、これはどのシーンだったか確かめたくなって、CDを聴き出した。わかっているのだが、主人公のドン・ホセの母がいて美しい婚約者のミカエラのいるバスク地方の故郷への郷愁を掻き立てる曲なのだが。ビゼーはこうして、ホセに間違った道から本来の場所に帰るために機会を何度か与えている。それがとても説得力のある曲であり旋律なのだ。故郷に錦を飾りたくて軍隊に入り、きわめて真面目に勤めていた彼なのだが、一度捕縛すべきカルメンを同情心から逃してからは、軍隊の中での出世の道を失い、逆にカルメンには恩に篤いところがあって、特別な恩返しをしてくれる。そこからは犯罪の手引きをしたりで、世のお尋ね者になって転落してゆく。しかしそんなホセにも、ほぼ最後まで故郷の田舎でやり直す可能性を教え諭してくれるミカエラを登場させるビゼーの演出は心憎いばかりだ。ニーチェがこの歌劇だけは何度も観た(上述の本では20回も観たと言っている)というのもうなづかれる。典型的で温かく完璧な描き方なのだ。もちろん闘牛士エスカミリオも持て男の代表として典型的に極めて魅力的に描かれている。ワグナーのような、とりわけ『パルジファル』のような異様な設定は何もない。そしてニーチェはワグナーに長く捕縛されてしまっていたのだ。

 ニーチェが最初に『カルメン』を観たと思われるノートを、一度見つけたのだが、それがいつだったかもう忘れてしまった。多分あの1882年秋のライプツィッヒなのだ。

 ニーチェの命日は8月25日だが、今年も何もしないで夏の熱さにうだりながら過ごしてしまった。3年前に、1882年秋にニーチェがライプツィッヒで借りていた家の近くの森で、ニーチェの書簡などを読みつつ過ごしたのが、ただ一度の命日にした慰霊だったかもしれない。ニーチェはドン・ホセ以上に迷いが深かった。

 聴きたかった曲は第二幕20番だった。


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