《『ツァラトゥストラ』の中の「最も孤独な放浪」について 発表要旨》

瀬谷こけし
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 標記のものの400×400のものをアップロードします。後日日本宗教学会のHPで「発表要旨」として公開されるものの原稿です。ニーチェの問題に深い関心のある方にいち早くご覧いただけるようにとの配慮です。ご意見などいただければ幸いです。

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《『ツァラトゥストラ』の中の「最も孤独な放浪」について》

             2019年9月15日 日本宗教学会発表要旨
Von der einsamsten Wanderung in “Also sprach Zarathustra”.
NAKAJI Masatsune

1.ニーチェの著作の中には「最も孤独な」(einsamst)の語が二十回表れる。それは概ね『曙光』以降は彼の哲学の核心をなす永遠回帰の思想と密接する仕方で使われる。『曙光』91番では「全知全能であってしかも自分の意図がおのれの被造物によって理解されることを少しも配慮しない神」は善意をもちながら己の意図を明瞭に表現(ausdrücken)できぬ者として「最も孤独な者」と呼ばれる。また同書423番では岩礁の立つ海辺の風景が観察され、岩塊や岩礁は「最も孤独な」ところを探し求めているように海の中につき進んでゆくと描かれ、その孤独の本質は「語ることができない」ことに見いだされている。
2.『FW』341と『Za』3-1「旅びと」においては[einsamst]が所有冠詞(mein,dein)を冠して用いられ「最高の孤独」は明示的にみずからの体験の連関の中で語られる。前者においては「お前の最も孤独な孤独」の中にデーモンが忍び込んできて私は「この人生、お前が今生きていて、これまで生きてきた人生を、お前はもう一度、そしてさらには無数回にわたって生きねばならない」という啓示を受ける。この教えは自分が別の時空で別の過去(と未来)をもった生を生きる可能性を遮断するが、今後の生についての私の決定の自由は手つかずに残される。この啓示の真理性に圧倒されそこに自らを賭けるとき永遠回帰の倫理学と呼ばれるべき一つの宗教的倫理学説が導かれ、人間にとっては自分のあらゆる行動に際して「お前はこのことを今一度、またさらに無数回繰り返すことを欲するか」という問いへの最終永遠の答えを確認し封印すること(Besiegelung)が行為の最大の重しとなる。それは言表することの彼方で行う最も孤独な行為である。
3.『Za』3-1-1においてはZaが「ああ、わたしはわたしの最も孤独な放浪を始めたのだ!」と自分に語る。これはZaが「おのれの最後の頂上」に立つことをめざして最終永遠の確認と封印をしたことを示す。その最後の頂上の内容は次の『Za』3-2「幻影と謎」で示される。そこでZaはまずこびとから試練を課される。こびとは「お前は自分自身を高く投げ上げた、だが投げ上げられた石はすべて落ちるのだ」と重力の本性を語りZaはその真理に苦しむが、やがて「勇気」(Muth)を発見する。勇気は「これが人生であったのか?よし!もう一度」と語る。これもまた人生の永遠回帰のもとでの最終永遠の「確認と封印」を表現し、「よし(Wohlan)!」に含まれる一度の肯定が墜落の恐怖に打ち勝つことを表現している。
4.「幻影と謎」2においては、前後に広がりをもって流れる現在の瞬間を出発点に「永遠の」存在を説く時間論が語られた後、岩礁のもと黒く重たい蛇に口から侵入され、喉をしっかりと領有され、言葉を失い、もがく牧人の幻影が語られる。牧人はZaの全力の叫びに呼応して蛇の頭を噛み切り吐き捨てる。そして「かつて地上で人間が彼が笑ったように笑ったことはなかった」と表現される笑いを笑う。この時彼はもはや人間ではなかったとされる。蛇は「最も重たいもの、最も黒いもののすべて」としての生成の全体を表す。
5.Zaの「最も孤独な放浪」はいつ終わるのか。形式的には第四部の終りで獅子の到来を見る時である。だが思考の肯定的な本質は牧人の笑いを提示した時に最初の完成を見ている。そして永遠回帰の体験は、私が喉を蛇に領有されて言葉を失い、言表の空間の彼方に消え、神の死の体験である「絶え間のない落下(Stürzen)」(FW125)を経験しそこで私を神のまなざしすら届かぬ無として把握し、確認し、それゆえ神が死んでいることを確認し、われわれが生成する万物とともに果てのない無のなかをさまよっていると把握するときに最も深まる。対して蛇の頭を噛み切る牧人の行為は万物が回帰すると捉える思考を廃棄する。ただ牧人の新しい笑いをわがものとした者だけがロゴスを越えて生を活気づける。

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