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zoom RSS 『故郷七十年』のなかで柳田国男は (『山の人生』のこと)

<<   作成日時 : 2009/01/29 04:03   >>

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瀬谷こけし
 『故郷七十年』(1974年、朝日新聞社)のなかで柳田国男は『山の人生』の冒頭の「山に埋もれたる人生ある事」に触れている。こんな風にだ。

 >第一の話は、かつて非常な饑饉の年に、西美濃の山の中で炭を焼く男が、子供二人を鉞(まさかり)できり殺したことがあった。自分の男の子と、どういうわけがあってか一人は育てていた小娘で、ともに十二、三歳になる子供であった。炭は売れず、……

 『山の人生』が刊行されたのは大正十五(1926)年のことだから、すでに五十年も前のことだ。
わたしが注目したいのは、ここでも「西美濃の山の中で」と記されていることだ。
このブログで前にも少し語ったことだが、この子殺しの事件、今日通説になっているように、現在の言い方で郡上市大和町山中の出来事であるとすれば、そのあたりのことを「西美濃と」呼ぶことはない。「奥美濃」と呼ぶべき場所だ。
 そのことを柳田はどう考えていたのだろうか?
先にわたしは、事件が起こった場所を置き換えて言うことで、事件をどこどこの誰々の事件と同定化できないようにした、という配慮したのだろうと言った。
http://25237720.at.webry.info/200901/article_3.html
しかし、事件からおよそ七十年、問題の著書からも五十年を経た時点でも、なお場所を変えて言う必要があったのだろうか、という疑問がどうしても残るのである。

 あるいは、このような子供殺しの事件は、当時はもっと頻繁に起こっていたことで、柳田が特赦を勘当するために調べていた事件というのが実はほんとうに「西美濃」で起こっていた可能性はないのだろうか?

 この件については、一件書類をさる方からいただいていて、大和町山中で起こった寒水のひとの事件だということで、「米も買えずに飢えていて」という動機のでっち上げについてまで、ほとんど疑問はないのであるが、しかしこの件を西美濃山中で起こった事件と考えておく可能性を排除してはならないと思うのである。それは『故郷七十年』の記述で言えば(対比は主に金子貞二著『奥美濃よもやま話三』による。前掲ブログ参照)、
 1.「西美濃」山中と言われている点(「奥美濃」ではなく)
 2.「秋の末」のこととされている点(「夏になりかけたとき」ではなく)
 3.「小屋の敷居の上を枕にして寝た」とされている点(「切り台にする丸太をすえて」「こどものアゴを丸太にかけさせて」ではなく)
などの点においてである。柳田が『山の人生』の冒頭の話として採録したもの、ほんとうに西美濃のどこかで起こった事件ではなかったのか?

 和田佐次郎の事件が「新四郎さ」として記録されたのはむしろきわめて特異な例であっただろう。金子貞二という稀有な民俗学者がたまたま明宝村(奥明方村)におり、そして村に伝わる話を精力的に採話していたことよってはじめて書物に残された事件である。西美濃の然るべきところに別の「金子貞二」がいなかったために柳田だけが書き残すことになった事件ではなかったのか?

 もっとも、父ひとり子ふたりの家族で、父が息子と娘を鉞で殺すというような事件が、当時であれそれほど頻繁に起こっていたとは考えがたく、またそのような事件であればおそらく新聞にも書かれたであろうことを考えれば、柳田が法制局参事官をしていた期間だけでも地元の新聞(『岐阜日々新聞』)をもれなく調べることができればこの件は解決するであろう。だがわたしが岐阜県立図書館で調べたところでは、明治三十五年から大正三年までの新聞で保存されているものは多くない。

 蓋然性ということで言えば、柳田が記した件は奥美濃山中の事件であった可能性が高い。だがそうではなく、実際に西美濃山中で起こった事件である可能性も完全に捨て去ってしまうわけにはゆかない。とりあえず性急な断定は避けておこう。


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