グレン・グールド

瀬谷こけし
 車で聴くためのCDを何枚か用意しているが、ここのところずっと掛けているCDがある。グレン・グールドの弾く、ベートーベンの最後のビアノ・ソナタだ。30番、31番、32番が連続して入っている。このCDが多分一番好きだ。大井浩明さんが「以前はシューマン目線で解釈していた」と批判的に語っているのは、このグールドの解釈のことなのか、と思うが、だがやはりわたしはこのグールドの解釈が好きだ。こんな演奏が一枚残せたら、それでもう、ひとりの人間が生きた証しとして十分だと思う。こういうものを自分は残せたか?
 ともあれ、わたしが聴いた最初のグールドがこれだったし、今も一番好きな一枚を上げろと言われればこれになる。茶色の枠のなかに、疲れ切って、消耗しつくして、指を組んでこちらを見ているひとりの若いピアニストが写っている。そういうカヴァーのレコードだった。この写真もこの上なく好きだった。人間の世界の外に出てしまったひとだった。そうするしかありえない、そうでしかありえない生きることの姿が、そこにあった。同時代では、テレンス・スタンプにも共通のものがあった。それは、時代を少しさかのぼれば、アントナン・アルトーにも共通するものだ。防禦の姿勢がないということ、傷つきやすいものをなまで晒して生きているというところが、痛ましい。

 最近思うのだが、次の世に生まれ変われるとしたら、グレン・グールドになりたい。生まれ変わりたいと思うのは、この人だけだ。



ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ集 II
ソニーレコード
1994-06-22
グールド(グレン)


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