《強大なピラミッド型に積み上がったひとつの岩塊》

瀬谷こけし


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"FRIEDRICH NIETZSCHEChronik in Bildern und Texten" (München 2000), S.492.


 「そのときそこでこの思想がわたしにやってきた」と『この人を見よ(Ecce Homo)』の中でニーチェが語るのは「あるピラミッド型に積み上がった強大な岩塊のかたわらにおいて」である。そこのところまず原典を紹介しよう。

>Ich gieng an jenem Tage am See Silvaplana duech die Wälder; bei einem mächtigen pyramidal aufgethürmten Block unweit Surlei machte ich Halt. Da kam mir dieser Gedanke.  (KSA, Bd.6 S.335)

寡聞にしてわたしはこのピラミッド型の岩塊 (Block) についてニーチェが他の箇所で語っているのを知らない。今日普通にこのニーチェの語る「ピラミッド型の岩塊」と見なされ、地元の地図にも「ニーチェ石」として紹介されているのは、シルヴァープラーナ湖畔に、水に洗われながら立つ高さ二メートル数十センチの、美しく均整のとれた、やや小ぶりの石である。この石はなによりも底面が正方形の、ほとんど正四角錐の形をしており、典型的なピラミッド型をしている点で、ニーチェの記述とぴったりと合う。結晶片岩のような石片の積み重なりによって形成されたようなところも「aufthürmenされた」という記述と適合していると言ってよく、この石をもってニーチェ言うの「ピラミッド型の岩塊」と見立てることにもまずは十分な理由があると言える。
 だがしかしこれはかなり小ぶりな岩で、「mächtig」(強大な)というニーチェの記述と少なからぬ違和感があるように思う。この岩には緻密に積み重なった印象があり、その緻密さの中に「mächtig」(力強い)な性格を読み取れないことはないと思うが、しかし例えばセーファー御嶽のような、「巨怪な岩塊」という印象はまったく受けない。いわばこけしのような、緻密でかわいらしい存在という印象なのである。果たしてこの石、いわゆる「ニーチェ石」が、『この人を見よ』の中で、『ツアラトゥストラはこう言った』の根本思想である永遠回帰の思想の感得と、密接に結びつけられた岩塊だとみなしてよいものなのだろうか? シューレイ(Surlei) のから遠からぬところにこの石よりも巨怪な印象を与えるピラミッド型の岩塊はないものなのだろうか? わたしは地元の何人かのひとに、『ニーチェクロニーク』(200年ミュンヘン/ウィーン)の中の一ページ(S.492)のコピーを示しながら尋ねた。ゴルヴァチ山ロープウェーの若い数名の職員は、これは中間駅から「パノラマ道」を歩いて行った途中の岩だと教えてくれた。わたしはどうやらその彼らが教えてくれた岩塊にたどり着くことができなかったようだが、ニーチェクロニークの中の1935年撮影の写真は、落下防止の木の柵がつけられ、湖水を数十メートル下に望む場所の巨怪な、歩道より少なくとも数メートル高い、頂上の三角に尖った岩塊に見えるものだった。わたしはもう一度この岩塊を探しに行かなければならないのではないだろうか。もしわたしがゴルヴァチ山の下山で疲れ果ててしまっていなければ、その翌日にその写真の岩塊を探すことができただろう。残念だが、ほんとうのニーチェのピラミッド岩塊に、わたしはまだたどり着けていないようだ。

===== 補説 2018.01.01 ==========

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写真A

ニーチェクロニーク掲載の写真について、一枚の参考写真を上げる(写真A)。これはわたしが2017年8月9日にいわゆる「ニーチェ石」を撮影した中の一枚だ。この写真にも背景に三つ尖りの山が見える。そして岩肌も全く同一と言える。とすれはわたしの写真と同じ線上で1メートルぐらいに視座を下げて撮ればクロニークの写真になるということだ。もし1935年当時湖水水面が一、ニメートル低く、そのために木の柵を設置していてとすれば、クロニークの写真はわたしの写真Aとほぼ同一のものになるだろう。つまり、ニーチェクロニーク掲載の写真はわたしの写真Aと同じく、いわゆるニーチェ石(Nietzschestein)を撮ったものだ。---わたしは、改めてクロニーク掲載の写真の石を探しに行く必要はないのだ。

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  • 《ニーチェ巨石》

    Excerpt: Ein mächtiger pyramidal aufgethürmter Block Weblog: 「世界という大きな書物」  中路正恒公式ブログ racked: 2017-12-31 17:08
  • 《ピラミッド型の岩塊と近くの草原》

    Excerpt:  世に言われるシルヴァープラーナ湖岸に立つニーチェ石ではなく、そこから300mほど離れた草原の奥にある力強いピラミッド型の岩塊(Block)と、その近くの草原の.. Weblog: 「世界という大きな書物」  中路正恒公式ブログ racked: 2017-12-31 17:09